東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2226号 決定 1992年7月23日
当事者 別紙当事者目録記載のとおり
主文
相手方らは、本決定送達後一〇日以内に、別紙物件目録記載の建物(本件建物)から退去せよ。
理由
1本件は、基本事件について、主文掲記の売却のための保全処分を求めるものである。
2一件記録によると、次の事実が認められる。
(1) 本件建物は、大田区久が原に昭和六三年に建築された新築一戸建住宅六棟(通称ガーデンヴィラ久が原一番館ないし三番館、五番館ないし七番館)のうちの一棟(一番館)である。申立人は、債務者兼所有者株式会社センチュリーワールド(所有者会社)に対し、平成元年一一月三〇日、本件建物を含む上記建物六棟及びその敷地の購入資金として二三億九五〇〇万円を貸し付け、これを担保するため、建物六棟及びその敷地に抵当権(共同担保)の設定仮登記を受け、平成二年一一月五日、本登記を取得した。
所有者会社は、再三の期限猶予にもかかわらず弁済を怠ったため、申立人は、平成三年七月一日、建物六棟及びその敷地について当裁判所に不動産競売の申立てをし、同月二日、競売開始決定がされ、差押えの登記がされた。
(2) 本件建物は、新築後未入居の状態であったが、滌除権者(株式会社エムアイ商事)に対する実行通知の後で本件差押えの登記に近接する平成三年六月中旬ころから、相手方が事務所として本件建物の占有を開始したものであり、二階は相手方日本ジャスパーの代表取締役前田誠二郎が、次いで相手方オックスの代表取締役的場泰美が、そこに居住している。
(3) 所有者会社の代表者は、平成三年五月半ばころまでに本件建物の鍵をエムアイ商事等に交付しており、相手方は、この鍵を利用して占有を開始したものである。
(4) ところで、本件建物を除く五棟の建物については、申立人は、平成三年六月二一日、所有者会社に対して民事保全法に基づく占有移転禁止・執行官保管の仮処分命令(当庁平成三年ヨ第三五七二号仮処分命令申立事件)を得て執行していたが、相手方オックスは、そのうち二、六、七番館の三棟について、公示書を破棄しあるいは無視して、入居して占有を開始した。そこで、平成三年八月七日、更に所有者会社及び相手方オックスに対して民事執行法一八八条、五五条に基づく占有移転禁止・執行官保管保全処分決定がされて(当庁平成三年ヲ二二一三号)、その執行が終了している。
(5) 相手方オックスは、所有者会社に対し本件建物を含む六棟の建物について改装工事契約代金債権を有し、その支払があるまで所有者会社との合意により本件建物並びに二、六、七番館を留置するものであると主張する。そして、右改装工事の契約は平成二年一二月二五日に締結されたもので、その工事代金は一億二一五〇万円にものぼる大規模なものであるというのであるが、右六棟の建物にそのような改装工事がされた形跡は認められない。また、相手方日本ジャスパーは、同社は相手方オックスの兄弟会社のようなものであるから占有しているもので、一番館の使用については格別の契約も使用料等の授受もないと主張するにとどまる。
(6) 本件建物については、平成三年一一月七日付けにて所有者会社を相手方として第三者に占有使用させてはならない旨の保全処分決定がされた(当庁平成三年ヲ第二二八三号売却のための保全処分申立事件)が、依然相手方の占有が継続している。
3以上のとおりで、所有者会社は差押えに近接して相手方をして空き家であった本件建物の占有を開始させたものであり、相手方オックスの主張する高額の改装工事は、そのような工事のされた形跡もなく、かつ、所有者会社の当時の経営状況に照らしても新築の未入居建物についてそのような多額の改装工事をすることには合理性がないのであって、およそ相手方らに本件建物を占有する権原は認められず、相手方らは所有者会社の意思に基づいて専ら執行妨害を目的として占有を開始したことが明らかである。このような事情のもとでは、相手方らは所有者会社の占有補助者であるというべきであるから、相手方らは、売却のための保全処分の相手方となる。
そして、新築後未入居であった本件建物及び敷地を執行妨害を目的として相手方らが占有することにより、その買受人の出現が困難になり、不動産競売における自由な競争が著しく阻害されて、本件建物及び敷地の価値は著しく減少することが明らかである。したがって、相手方らの行為は、本件建物の価格を著しく減少させる行為にあたるというべきである。
よって、民事執行法一八八条、五五条一項に基づき、申立人に相手方らのためそれぞれ金二五万円の担保を立てさせた上、主文のとおり決定する。
(裁判官杉原麗)
別紙当事者目録
申立人 ファーストファイナンス株式会社
右代表者代表取締役 白熊衛
申立人代理人弁護士 小沢征行
同 秋山泰夫
同 藤平克彦
同 香月裕爾
同 香川明久
相手方 株式会社オックス
右代表者代表取締役 的場泰美
相手方 日本ジャスパー株式会社
右代表者代表取締役 前田誠二郎
別紙物件目録
1所在 東京都大田区久が原二丁目
地番 三〇三番一
地目 宅地
地積 164.96平方メートル
2所在 東京都大田区久が原二丁目三〇三番地二
家屋番号 三〇三番一
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付二階建
床面積 一階73.89平方メートル
二階67.17平方メートル
地下一階19.39平方メートル